パーソナライゼーションは時代遅れ? – ペルソナを用いたマーケティング手法との違い


データから「個人」の嗜好を理解する技術とは?

 

マスマーケティングから脱却し、顧客一人ひとりに最適化した情報やバリューを届けるマーケティング手法が「パーソナライゼーション」です。この言葉は、業界では当たり前のものとして定着しており、一部メディアで「パーソナライゼーションは時代遅れでは?」「次の手法を探すべきだ」と言われることもあります。果たしてそうでしょうか?

 

私たちシルバーエッグ・テクノロジーは、本当のパーソナライゼーションが社会に浸透するのは、これからではないかと考えています。「この手法は時代遅れ」と考える人たちが現れるのは、不十分な形でのパーソナライゼーションの導入例を見て、その効果を疑問視しているからなのかもしれません。

 

その背景を探っていきましょう。

 

【INDEX】
その手法はパーソナライゼーションか?
「パーソン」ではなく「ペルソナ」を見ている?
多様性の尊重ができているのか?
パーソナライゼーションとターゲティングは相互補完


その手法はパーソナライゼーションか?

そもそも、「顧客一人ひとりが求める物を届ける」というパーソナライズのコンセプトは、マーケティングという概念が体系化される前からあったものです。20世紀末にECが開花し、コンピューターの性能向上や、高度な市場分析手法の一般化が実現すると、この言葉は再度注目されるようになりました。

 

今日では、さまざまなマーケティングツールがパーソナライゼーションの実現を語っています。例えばMAツールでは、一人ひとりの行動や状況(“Webページを何回閲覧したか”とか、“今月誕生日か”など)で、一人ひとりにメールを出し分けます。業者が配信しているWeb広告も、顧客の興味関心によって広告内容を変えるので、パーソナライズされていると言うことができます。

 

これらの手法に効果があることは確かです。しかし、これらは実際どこまで「パーソナライゼーション」と言えるのでしょうか?

 

 

「パーソン」ではなく「ペルソナ」を見ている?

実のところ、上記のようなマーケティングツールで実現する「パーソナライゼーション」は、セグメントの掛け合わせによる、ターゲティング手法の発展版であることが多いです。

 

たとえば「年齢」「性別」「誕生月」といった個人情報や、「○○のサイトにアクセスした人」というセグメントに対し、ルールベースで異なるコンテンツに誘導するタイプの「パーソナライゼーション」は実際にはセグメントベースのターゲティングにすぎません。

 

また、ユーザーではなく商品に色や形、テイストなどに基づくキーワードタグ(またはハッシュタグ)をつけ、そのタグを好む顧客をひとつのセグメントとして、商品を届ける手法も多く用いられます。特に検索広告では、検索されやすい商品キーワードを組み合わせ、ターゲティングするやり方が多く見られます。

 

実際のターゲティングは、シンプルに一つのセグメントか、良くて数種類の異なるセグメントの掛け合わせによって実現します。例えば、「女性」「30代」「スーツ購入歴あり」といった具合です。

 

これだけの情報があれば、どんな商品が好まれるのかなんとなく予測することはできるでしょう。「キャリア志向」「ハイブランド」といったタグとの組み合わせが有効かもしれません。

 

しかし、いまあなたの目の前に、このセグメントに当てはまる人物がいたとして、その人に例えば「ハイブランド」「スーツ」のタグが付いた商品を提案することが、本当に正解なのでしょうか?

 

恐らく、そうはならないはずです。何を着たいのか、何を買いたいのかは、同じセグメントに入っている人であっても、様々です。また、その人の置かれた状況によっても変化します。プライベートでは全く異なる装いの人も多いでしょう。また、「いつもスーツを着ている人と思われたくない」と考えている人もいるはずです。

 

複数のセグメント枠によって仮想的に作られた集合的な人物像に対しターゲティングを行う上記の手法は、言うならば「ペルソナ」の分析に留まっており、セグメントの枠の中に入れられた“個人”が、いま、本当に何を求めているのかを知るには不十分です。

 

 

多様性の尊重ができているのか?

個人の属性や、商品の属性(タグ)をベースにしたターゲティングには、確かに一定の効果があります。しかし、いくらターゲティングの粒度を細かくしても、個人を属性という枠で捉え、その枠の中から商品をプッシュするようなやり方では、出てくるものが画一的になり、つまらないと思う人も増えてくるでしょう。

 

本当の意味でのパーソナライズ、つまり個人に寄り添った商品提案をしたいのであれば、「属性」という枠でその人を捉えるべきではありません。パーソナライゼーションの本来的な意味を踏襲するならば、顧客一人ひとりにきちんと話を聞き、求めるものが何かを見定め提供すべきです。

 

莫大な数のユーザーが常時アクセスするECの世界では、そのようなやり方は困難です。ですから、「何を見たか」「何を買ったか」という個人の行動から、その人が“いま、何を求めているのか”を予測する、AIのアルゴリズムを使った厳密なパーソナライゼーションの手法が生まれたのです。現在も進化し続けているAIによるレコメンドは、その最たる例です。

 

AIを使った行動情報ベースの手法は、消費者を属性で判断しません。例えばユーザーの属性が「男性」であっても、最近見続けてきたアイテムが女性物であれば、それに合わせて女性ものをレコメンドするように切り替えます。

 

そのユーザーは、自分には女性向けアイテムが似合うと自覚しているのかもしれませんし、女性用のプレゼントを選んでいるのかもしれません。AIにその意図を知ることはできませんが、少なくとも個人が「いま」欲しいものを認識し、枠にとらわれずに適切な商品を提案することができます。このような提案により、消費者自身が気づいていない思いもよらない商品との出会い(セレンディピティ)を生み出すこともできます。

 

 

パーソナライゼーションとターゲティングは相互補完

ここで言いたいのは、AIを使ったパーソナライゼーションが従来のターゲティングやペルソナマーケティングに比べ優れている、ということではありません。問題の本質は、技術の使いどころです。

 

例えば、商品タグを使ったセグメント化の手法は、消費者個人が自発的に何かを探しているときには大いに役立ちます。消費者本人が、明確に「ハイブランドのスーツが欲しい」と考え行動しているときには、そのようなタグがついた商品一覧を表示することで、的確な商品選択にたどり着くことができます。

 

しかし、サイト内のバナーやメールでの告知のような、企業側から能動的に商品を提案する場面では、属性タグによるターゲティング手法は不十分です。画一的に商品を押し付けず、個人の行動から「いま」求められるものをきちんと予測して提案する、AIを使ったパーソナライゼーションが不可欠です。

 

人を属性で判断せず、集団の中にある多様性、あるいは個人の中にある多様なニーズを救い上げ、提案する。それがパーソナライゼーションの究極の姿です。顧客個人をもてなし、よりよい消費を引き出してくためには、タグに頼らない行動情報ベースのパーソナライゼーションには、むしろ進化の余地があると言えます。

 

批判の対象となっているのは、使いどころを誤った属性情報ベースの手法であることが大半です。この問題を解消し、より高度なパーソナライゼーションを実現するため、シルバーエッグ・テクノロジーを含む、多くの企業、研究者が、新たなアルゴリズムの開発を続けています。本当の意味でのパーソナライゼーションが花開く時代は、これからなのです。

 

 

文責:園田 真悟(シルバーエッグ・テクノロジー株式会社)



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