動画配信サイトのレコメンドに何が起きた? ユーザーが求める「おすすめ」の謎


 

【INDEX】

・「あなたへのおすすめ」の価値とは?
・「おすすめ」が嫌われる理由
・Netflixの「おすすめ」に何が起きたか
・ECはレコメンドをどう使うべきか
・レコメンドの「見せ方」は顧客満足度に関わる
・ユーザーに寄り添い、レコメンドの価値を最大化する


「あなたへのおすすめ」の価値とは?

インターネットを使っていて、「あなたへのおすすめ」という言葉に出会わない日はあるでしょうか? eコマースサイトから動画ストリーミングサービスまで、「あなたへのおすすめ」——レコメンドサービスは、あたかもデジタル時代の魔法の杖のように、どこにでも使われています。レコメンドエンジンの性能向上によって、売上の20%以上をレコメンドで稼ぐサービスも、当たり前に見られる時代となりました。

 

しかし、煌びやかな表面の下には、消費者の溜息が隠れていることもまた事実。数ある「おすすめ」の中には、実はユーザーの心をつかむものは少なく、不満の声がチラホラと聞こえてきます。なぜでしょうか?

 

 

「おすすめ」が嫌われる理由

例えば、レコメンドエンジンによる成長の象徴、Netflix(ネットフリックス)を見てみましょう。その洗練された機械学習技術は、ユーザーの過去の視聴履歴や評価を元に、私たちの「視聴DNA」を読み解き、一人ひとりに異なるおすすめコンテンツを提供してくれます。レコメンドで埋め尽くされたNetflixのTopページは、私たちが「知らなかったお気に入り」を見つけ出してくれる宝の地図です。

 

ところが現実は少し異なります。多くのNetflixユーザーは「見たいものが見つからない」「興味のないコンテンツばかり」と口を揃えます。なぜでしょうか? その背景には、Netflixのビジネスモデルの変遷と、あまりにも洗練されたUIデザインがあると考えられます。

 

 

Netflixの「おすすめ」に何が起きたか

かつては定額制レンタルビデオショップとしてスタートしたNetflixは、利益率の高い新作コンテンツを積極的に貸し出すのではなく、ロングテールと呼ばれる原価償却済の旧作映画やTVシリーズ作品をユーザーの好みに合わせて提案(レコメンド)し、ユーザーに「次も見続けよう」と思わせることで安定した収益を確保していました。そのビジネスモデルをオンラインの動画配信に持ち込んだ彼らは、業界のトップランナーとして君臨するに至りました。

 

しかし、AmazonやAppleなどの異業種の動画配信ビジネス参入だけでなく、ディズニー(TV局のABCを傘下に持ちます)やパラマウント(同じくCBSを傘下に持ちます)などの、メディア・コングロマリットと呼ばれる大企業が配信ビジネスを積極的に行うようになると、情勢が変わってきます。彼らは膨大なコンテンツを制作・保有しており、彼らからコンテンツを買う立場であったNetflixの競争力は相対的に失われていくことになりました。

 

メディア・コングロマリットとの競争を打ち勝つため、Netflixはコンテンツの自社製作へと舵を切ることになります。そのため、自社コンテンツを優先してレコメンドするインセンティブが生じ、結果的に、ユーザーがおすすめされる作品の「多様性の欠如」という新たな課題が生まれました。

 

Netflixのレコメンドエンジンに何が起きたのかというと、何も起きていません。おそらく今も世界トップクラスでしょう。しかし、ビジネス環境そのものが変わってしまったため、レコメンド体験に不満を感じるユーザーが増えてしまったです。

 

加えて、NetflixのUIはあまりにも最適化されすぎており、ユーザーは「発見」の楽しさを奪われ、レコメンドされたコンテンツに対しても冷めた目を向けるようになってしまいました。NetflixのUIは、ログイン後トップページですぐにコンテンツを選び、視聴が開始できるよう設計されています。これは画面遷移ごとに起こるユーザー離脱を防ぎ、連続視聴を促す仕組みとして有効ですが、ユーザーが検索やカテゴリーリストを使って能動的に「探す楽しみ」は逆に減退します。トップページでレコメンドされたコンテンツだけを見て、「面白くない」と断じてしまうユーザーが増えてしまいました。

 

ここから学べるのは、レコメンドエンジンの精度は重要だが、それだけでは不十分ということです。コンテンツの多様性とユーザーインターフェイスの楽しさが、レコメンドエンジンの成功には不可欠なのです。そう、私たちはただの商品を探しているのではありません。私たちは、心躍る「発見」を求めているのですから。

 

 

ECはレコメンドをどう使うべきか

Netflixの例から得られる教訓は、Webマーケティング業界にとって大きな示唆を与えています。レコメンドエンジンは、売り手と買い手の間で繊細なバランスを保つ必要があります。売り手は「売りたいもの」をレコメンドしたいと考えがちですが、これはレコメンドエンジンにとって本質的な機能ではありません。また、レコメンドの内容が良くても、その見せ方が悪ければ消費者の体験は悪化するのです。

 

売りたい商品を押し付けてしまう問題は、物販系のECサイトでもたびたび問題になります。例えば、ある食品系ECサイトが「土用の丑の日にはうなぎを推しましょう!」と考えるのは自然です。しかし、多くの消費者はうなぎ以外の商品を求めているかもしれません。レコメンドの目的は、特定の商品の売上ノルマ達成ではなく、ユーザーのショッピング体験を向上させることにあるべきです。これが全体の売上を持続的に向上させるカギとなります。

 

 

レコメンドの「見せ方」は顧客満足度に関わる

レコメンドの「見せ方」における課題も、オンラインサービスの形態に応じて柔軟に解決策を探る必要があります。

 

動画配信サービスと比較して、物販系のECサイトのカスタマージャーニーはより複雑です。商品選びから詳細閲覧、決済に至る各段階で、ユーザーが求めるものは変わります。たとえば、商品詳細ページでは同カテゴリーの比較商品を、決済ページでは追加購入しやすい低額商品をレコメンドするなど、表示するアイテムを状況に応じてチューニングすることが、顧客満足度を高める鍵となります。

 

さらに、レコメンド表示の方法自体にも工夫が必要です。例えば、「あなたへのおすすめ」という言葉は、ユーザーにネガティブな先入観を与えている可能性があります。これまでの精度の低いレコメンド体験が原因で、ユーザーはレコメンド自体を信頼していないのかもしれません。そこで、「あなたへのおすすめ」という決まりきった言葉を使わず、さりげない方法でレコメンドアイテムを表示し、ユーザーが先入観なしに商品を受け入れやすくする工夫が求められます。

 

 

ユーザーに寄り添い、レコメンドの価値を最大化する

レコメンドエンジンの実力をフルに発揮し、20%以上の売上増強を実現していくためには、ユーザーの心理を考慮し、レコメンド表示枠を適切にサイト内に配置し、パーソナライズされた体験を提供することが重要です。そして、ABテストを行い、その効果を確認していくことで、ユーザーにとっても売り手にとっても価値のあるオンラインサービスを作っていくことが出来ます。

 

レコメンドエンジンの適切な使用は、単にテクノロジーの問題ではなく、マーケティング戦略の根幹に関わるものです。売り手と買い手の間に立つこのデジタルな橋渡し役は、双方にとって有益な結果をもたらすための繊細なバランスと洞察を必要としています。

 

ユーザーが「このおすすめ、なんかいいかも!」と心から思えるような、感動を与えるWeb体験。それが、いまのWebマーケティングに求められるものです。AIの技術改善は日進月歩。このような体験が当たり前になる日も、近いのかもしれません。

 

 

(文責:園田 真悟)


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