米国・EU圏で機運の高まる、金融業界の「パーソナライズド・マーケティング」


2020年に発生したCOVID-19パンデミックによる行動制限の波は、全世界のあらゆる業界で、デジタルシフトを加速させました。金融業界も、その例外ではありません。以前よりFintechの活用を進めていた先進的なベンチャー企業だけでなく、比較的保守的な金融事業者であっても、インターネットを主戦場とした事業展開が求められるようになっています。

 

金融事業者がデジタルの世界で成功するために、いま何が求められるのでしょうか? 海外のいくつかのレポートから、トレンドを読み解いていきましょう。

 

 

物理的な「店舗」の減少

2021年3月、テキサス州に本拠地を置くアンダーバンク層(*)向けフィンテック企業Self Financial社が、「銀行の死」といういささかセンセーショナルなタイトルのレポートを発表しました。レポートによると、2012年から2018年にかけて、米国の銀行支店数は年平均902店ずつ減少しており、減少のペースは3年ごとに倍化しています。彼らは、2030年には銀行の支店数が2012年の1/5以下となると予測しています。

 

一方で、物理的な銀行へのアクセスが難しくなったユーザーの窓口として、ネット銀行の口座開設のペースも高まっています。同レポートによれば、過去12か月で米国民の34%がオンライン専業銀行の口座を開設しています。パンデミックにより、この傾向が更に加速しただろうことは容易に想像がつきます。また、パンデミックが終息しても、以前から続いてきたデジタルシフトが後戻りすることは少ないでしょう。

 

デジタルの世界で優先すべき課題は?

パンデミックを機に否応なくデジタル化の波にのまれていくユーザーを、金融業界はどう受け止めるべきでしょうか? 英国の金融リサーチ企業 IBS Intelligenceが3月に発表した、2021年に注目すべきフィンテック業界のトレンドは、この状況に対する一定の回答になっています。紹介されたトレンドは以下の5つです。

 

1. サイバーセキュリティ:機械学習による詐欺の防止や、ブロックチェーン、量子暗号など

2. ビッグデータと分析:よりパーソナライズされた、ターゲットを絞ったユーザー体験の構築

3. パートナーシップ:銀行とフィンテックとの連携による顧客層拡大、ニーズの把握

4. デジタルバンク:より良いサービスを提供するデジタル専用銀行への消費者の移行

5. パーソナライゼーション:顧客個人の経験やデータに基づいた、価値あるサービスの提供

 

ここには、量子暗号といったバズワードも入っているものの、新技術・新サービスで全く新たな市場を生み出すといった派手な言葉は見られません。むしろ、セキュリティで顧客を安心させ、パートナーシップで顧客基盤を広げるという、ビジネス推進の基盤となるべき地味な施策が主体になっています。ブロックチェーンやIoTによる新しい価値創造などとはレイヤーの異なる、ある種地に足のついた「ITによる顧客体験の改善」が、トレンドの主体となりつつあるのです。

 

特に顧客体験という意味では、トレンドの2番と5番双方で「パーソナライゼーション」が挙げられている点は、注目に値します。パーソナライゼーションとは、顧客一人ひとりにカスタマイズした商品や情報、体験を提供するマーケティング施策です。今回IBS社は、古くから謳われてきた「データの活用」の目的は、パーソナライズされた体験の実現のためにあると指摘しています。パーソナライゼーションは、セキュリティやパートナーシップと同列に語られる、アフターデジタルの基本戦略と言えるでしょう。

 

金融におけるパーソナライズド・サービスの一例

金融業界におけるパーソナライゼーションとは、具体的にどのような施策を指すのでしょうか? 一例として、EU圏で注目を集めるモバイル専業銀行、N26の取り組みを見てみましょう。彼らのパーソナライゼーション戦略を紹介するWebページでは、ユーザーのライフスタイルやニーズにあわせてN26のサイトやアプリをカスタマイズするための、いくつかの機能が紹介されています。

 

・取引に対し“情報タグ”をつけることで、ユーザーが支出レポートをグルーピングして管理できる機能

・取引額の端数を1ドル単位で切り上げ、小銭を自動的に貯金できる機能

・提携するサービスへの、様々な割引プラン

 

こうやって見ると、これらはどれも「ちょっとした便利機能」であって、データを活用したパーソナライゼーションという言葉には結びつかないかもしれません。しかし、パーソナライゼーションの本質は、ユーザー自身が自分に合った情報や体験を得ることです。N26はこれらのきめ細やかな補助機能を多数実装することで、ユーザーに画一的なサービスを押し付けるのではなく、ひとりひとりのライフスタイルにあった、多様な銀行の使い方を提案しているのです。

 

パーソナライゼーションとは、選択肢のスマートな提供

一方、先のSelf社のレポートの中で、N26のスポークスパーソンはパーソナライゼーションについて、「AIによって個々のニーズにあわせた銀行商品を提供することが可能になる」と述べています。また、THE FINANCIAL BRANDは、金融業界が見習うべきパーソナライゼーションのモデルケースとして「アマゾン、ネットフリックス、インスタカート」を挙げ、金融事業者はAIや機械学習、予測分析を活用して、彼らのようなエンゲージメントのしやすさと、インテリジェントなレコメンデーションの両方を提供する必要があると説いています。

アマゾンなどの成功したテック企業は、WebサイトやアプリのコンテンツをAIベースのレコメンドエンジンによってパーソナライズし、ユーザーによって異なる情報を提示できるようにしています。また、CRMやMAツールを使い、メールでも個人の関心やライフスタイルに応じたコンテンツを、自動的に送信しています。これらは、データ(ユーザーの行動情報や属性情報など)を活用したパーソナライゼーションの、模範的な事例と言えます。

金融ビジネスは、流通業やコンテンツ産業ではありません。しかし、多様な商品や、読んでもらうべき様々な情報(コンテンツ)を保有しているという点では同じです。高精度のAIレコメンドやMAツールを利用することで、先のN26の例と同じく、ユーザー一人ひとりが自身の嗜好やライフスタイルに適した、ベストな商品や情報を、スマートに選択することが可能になります。

 

 

 

パーソナライゼーションが2021年のFintechトレンドにあがっている背景には、パンデミックによってデジタルに移行した金融サービスの「ユーザー体験」に対する不満があると考えてよいと思います。これまでリアルで提供していたサービスをすべてWebサービスやAppに移行したとしても、銀行の窓口のように話を聞いてくれて、適切なサービスを選んでくれるアシスタントはいません。チャットボットも、きちんとニーズを予測できるエンジンを備えていなければ意味をなしません。

ユーザー一人ひとりのデータからニーズを予測し、情報をスマートに提供するAI機能は、この喫緊の課題を解決します。また、こういった機能は既に流通業界で多く試され、実績を積んできています。デジタル上でユーザーの信頼を得て、リアルと同じように長くサービスを使ってもらうために、AIを用いたパーソナライゼーション機能の実装を考えてみてはいかがでしょうか?

 


*アンダーバンク層:米国で主に信用の問題から銀行の口座を持てない人々のこと。米国ではアンダーバンク層が大きなマーケットとして認知されており、彼らの課題をテクノロジーによって解決しようというベンチャーが多数あります。



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