ECのメディア化: ECサイトでオウンドメディアを最大限活用するために


ECのメディア化: ECサイトでオウンドメディアを最大限活用するために

 

ECサイトでもオウンドメディアをマーケティングの一つのチャネルとして活用することが一般的となりました。

しかし、ECサイトの場合単に面白いコンテンツを供給してアクセス数が増えればよいわけではありません。
ユーザーにそのメディアの読者ではなく、究極的にはブランドやそこで扱う商品のファンになってもらいたいのですから、コンテンツや導線には商品と結びつくような工夫が必要です。
今回はECサイトでのオウンドメディア活用にあたっての、前提、利点と課題についてあらためて考えてみました。

また、ECのメディア化でレコメンドを活用した成功例についてもご紹介します。

 

【INDEX】

背景:オウンドメディアの重要性
・顧客にとって「価値ある」情報とは何か
・オウンドメディアはどんな価値を提供すればよいか
ECサイトのオウンドメディア
・ECサイトでオウンドメディアを運用する利点
・ECサイトのメディア化「メディアコマース」の課題
・アイテムとコンテンツ間のジャンルを横断して購買意欲を促進
ECのメディア化におけるレコメンドの活用例: スタイリングのレコメンド
まとめ


 

背景: オウンドメディアの重要性

コンテンツマーケティングが重要なマーケティングの一手法として定着し、レコメンドをオウンドメディアに活用できないか、というご相談をいただくことが近年増加しています。

 

周知の通り顧客行動は過去10年の間にも大きく変化し、いわゆるバナー広告の効果も激減しました。

顧客が広告や商品情報を一方的に押し付けられることを好まなくなったのです。まずWeb上で情報収集し、そこで「価値ある」情報から主体的に判断することが、一般的な顧客行動となりました。

 

こうした変化の中、オウンドメディアは、顧客にとって「価値ある」情報を扱うことのできる媒体として注目されることになりました。

価値ある情報を供給し、顧客を惹き付けていくことで、購入や問合せ、成約といったコンバージョンにつなげることができるからです。

オウンドメディアは直接的なプロモーションや商品情報ではなく、トレンドやレビューなど商品の周辺的な情報を扱うことができるため、主体的に情報を探す顧客との重要なタッチポイントの一つとなったのです。

 

顧客にとって「価値ある」情報とは何か

では顧客にとって「価値ある」情報とは何でしょうか。

コンテンツマーケティングにおいては、顧客自身が好きなタイミングで、自分の求める情報を見つけたときに、顧客はこれを「価値ある」情報として認識するとされます。

つまり、自分の生活に即した「リアル」な情報ほど、顧客は「価値ある」情報として認識しやすいと言えます。

 

したがって、顧客にとっては、洗練されたブランドサイトのイメージ写真や耳あたりの良いコンセプトは必ずしも価値のある情報とは言えません。逆に、忌憚ないクチコミや店舗スタッフや他のユーザーの投稿の方が、リアルで「価値ある」情報と認識されることも十分にありえます。

 

しかし、価値というのは多面的なものです。
ここで、顧客は生活に即したリアルな価値にしか興味がないと考えるのは早計です。

SNSで発信される情報の多くは、共感性が高いリアルな情報ですが、断片的で必ずしも信頼性が高いとは言えません。

内容が薄かったり信頼性の低い情報は、面白いものであっても、冷静な顧客にとってはそもそも物事の判断材料とはなりえません。

顧客は、情報量の重み、ロイヤリティや倫理性/審美性といった、従来的で客観的な価値を軽視しているわけではないのです。

 

要約すると、顧客が配慮する情報の価値には、大きく分けて二つの基準があると言えます。

一つは、リアルさや共感性の高さといった、今日オンライン上でとくに注目されている価値基準で、もう一つは情報の量や質という従来的な価値基準です。

オウンドメディアはどんな価値を提供すればよいか

ではオウンドメディアはどのような価値あるコンテンツを提供していけばよいのでしょうか。

 

企業が運営している限り、従来的な価値を最低限満たしていることは必要条件と考えるべきでしょう。

それに加えて、ブランドサイトでは応えきれない顧客が求めているリアルさや共感性を満たすことができるかどうかが、マーケティングにおいては重要です。

 

実際、オウンドメディアは、SNSほどユーザー主体ではないため企業側で情報の舵が取りやすく、また一般的にブランドサイトほど広報の規制が強くないため、二つの側面の価値ある情報の両方を供給していくことが可能です。

 

しかし、両者のバランスをどのように取っていくかは、オウンドメディアを活用して何をしたいかという目的と戦略に依存しています。

オウンドメディアがマーケティングの全体的な目的と戦略の一つの手段であるということは常に忘れてはいけません。

オウンドメディアは単に面白いコンテンツを供給して顧客を喜ばせることが目的なのではない、ということです。その情報が受け手にとってどのような価値があり、それによって彼らの認識をどのように変えたいか、ということが重要なのです。

 

ECサイトのオウンドメディア: 課題と活用方法

 

ECサイトがオウンドメディアを運用する目的はどのようなものがあるでしょうか。

ECサイトの場合、オウンドメディアはサイトで扱っている商品を「買いたい」と思ってもらえるように受け手の認識を変えることができれば、成功と言えるでしょう。

しかしそれだけではありません。

ここではECサイトがオウンドメディアを運用する利点とその課題、理想的な導線設計について考えてみます。

 

ECサイトでオウンドメディアを運用する利点

 

前述の通り、リアルな情報を求めるユーザーにとっては、直接的な商品のプロモーションはいかに信頼性が高く美観に優れたものであっても、現実的な生活と結びつきにくければ心に響きません。

 

その点、オウンドメディアには大きく三つの利点があると言えます。

 

第一に、オウンドメディアは直接的な商品情報以外のトピックを扱いやすく、自社について認知のない潜在層に対するタッチポイントとなりうるという点です。

指名買いやリピーターは別として、それ以外の潜在層は自社のECサイトをわざわざ自発的に訪問するきっかけはほとんどありません。
しかし、ターゲットとなる潜在層の要求に即したトレンドやニーズといった、商品の周辺的なトピックを扱うことで、もともと自社を知らなかったり購入したことのないユーザーとのタッチポイントになります。

 

第二に、オウンドメディアはブランドサイトの公式情報と異なり広報の規制が比較的ゆるいという特性から、顧客にとってリアルで共感性の高いコンテンツを供給しやすいという点です。

たとえば、商品と直接かかわる店舗スタッフや顧客が投稿する写真やレビューがそうです。こうしたコンテンツは、商品の実際の使用感やイメージを膨らませることを容易にし、役に立つ情報として顧客の関心を高めることができます。

 

第三に、オウンドメディアはこのようにして顧客の関心を惹きつけることで、サイトのカルチャーをも醸成することができるという点です。

ただ物を購入するだけの場であれば、物が手に入ってしまえばあとは用済みとなります。

しかし、役に立つコンテンツの存在により、顧客はECサイト全体を情報収集や新しいことを考えるきっかけの場として認識するようになります。

オウンドメディアを通じて、継続的にサイトを訪れ新作をチェックする優良顧客を育成することも可能なのです。

 

このように、オウンドメディアはECの運営においても、潜在層から優良顧客まで幅広いサイト訪問者に訴えることができます。

具体的にどのようなコンテンツをどのように見せていくかはターゲット次第ですが、オウンドメディアは、認知から購入までの幅広いプロセスで、認識の変容の契機となりうる媒体なのです。

 

ECのメディア化「メディアコマース」の課題

ではUIの観点では、ECサイトの場合どのようにオウンドメディアと連携させるのが理想的でしょうか。

コンテンツメディアと商品ページがシームレスに情報を補い合うことのできるサイトならば、ユーザーの情報収集から購入へ至る行動もスムーズなものになるでしょう。

シームレスなECのメディア化のイメージ
このようなECのメディア化は「メディアコマース」と呼ばれ、顧客の役に立つ情報を提供しつつ、同時に商品の購入を暗に促進することができる手法として、最近では多くのECサイトで導入されています。

シームレスなECのメディア化という観点では、コンテンツページとアイテムページが相互に関連付けられ、またユーザーが二つのページ間のジャンルの違いに対して無意識に遷移できるようなUIが理想的です。

このような導線を作るには、「別々に配置型」を発展させて、コンテンツページとアイテムページの双方に、両者を横断できるような表示枠を設けるのが良いでしょう。

そうすれば、1ページの情報量を抑えることができ、なおかつ、もしユーザーが望めばすぐさまコンテンツと商品の情報を行き来できるようにすることができます。

 

そのさい、コンテンツとアイテム双方の表示デザインをできるだけ統一感のあるものにすれば、ユーザーは違和感をもつことなく自然にページを回遊しやすくなります。

コンテンツを見に来たユーザーも無意識的に商品ページを回遊し、逆に商品ページを見ている際に何か疑問や懸念事項があるときはコンテンツでより詳細な周辺情報を収集する、というジャンル横断的な遷移行動が促進されます。

 

アイテムとコンテンツ間のジャンルを横断して購買意欲を促進

ECのメディア化の障壁となる上述の課題は、AI(人工知能)に任せることで、効率的に解決ができます。

 

アイテム間の類似性やユーザーの行動履歴をもとに別の商品をおすすめするレコメンドエンジンの機能は、実はコンテンツのレコメンドにも活用することができます。

またこれは、商品とコンテンツ間のジャンルを横断したレコメンドも可能です。

 

手順としてはまず、コンテンツと商品間の類似性を計算することから始めます。

テキストマイニングの機能を持つレコメンドエンジンであれば、商品ページとコンテンツページのテキスト情報を分析して、類似性を計算できます。

これにより、ユーザーがオウンドメディア上で見ている「コンテンツ」に対し、類似性の高い「商品」を表示し、ECへ送客する導線を自動生成できるようになります。

 

また、AIを搭載した優れたエンジンであれば、単純な「テキストの一致度が高い」という判定にとどまらず、ページが持つ潜在的な意味合いを推測して、人間が客観的に見ても「関連がある」と認識できるレベルで、類似性を計算できます。

ニュースサイト系のスマートフォンアプリの一部でも、この技術を利用しているものがあるようです。

 

類似性をもとにしたレコメンドによる導線を生成して、コンテンツと商品間の往来が増えてきたら、次は「この記事を見た人はこんな商品も見ています」という、行動情報や協調フィルタリングをベースとしたレコメンドにシフトするのが有効です。

 

行動情報を利用したレコメンドは、類似性をもとにしたレコメンドと比べて、より「ユーザーの興味」を反映しやすい性質があるため、一人ひとりの興味に合わせた商品を推奨できる可能性が高まります。

 

サイトには、行動情報がない初訪ユーザーから、何度も訪れている熱心なファンまで、さまざまな状態のユーザーがやって来ます。彼ら一人ひとりの状況や興味にあわせて、適切かつ柔軟な接客・情報提供をすることが重要です。

行動情報があれば行動情報から、不足していればテキストの類似性から、という2段構えのロジックを用意することで、レコメンドの精度を高め、送客に繋げるのです。

 

ECのメディア化におけるレコメンドの活用例: スタイリングのレコメンド

ECサイトで運用するオウンドメディアのコンテンツは、開発者のブログやコラムはもちろん、各店舗スタッフによる投稿型の写真やレビューなど多彩な広がりをみせています。

ここでは、ファッション業界ですっかり定着している店舗スタッフによるコーディネートのスナップ投稿を、ここではECのメディア化の一つの成功パターンとしてご紹介します。

店舗スタッフによるさまざまなコーディネートのスナップのオウンドメディアを用意し、それを商品ページに表示させる方法です。

パーソナライズされたスタイリングのレコメンド

 

公式な商材写真として扱われるモデルのスナップと異なり、店舗スタッフのスナップは、テイストや体型もスタッフによってまちまちで、顧客は自分の悩みや関心に近いスナップを見つけることができます。

このため、受け手にも着こなしのイメージがしやすく、リアルで価値のある情報として自分の購入の参考にすることができます。

 

この効果は数字にも表れており、あるサイトでは1回のセッションで20~50スナップも見られていることが確認されています*。

* 「ブランド横断型ECサイトで、売上貢献だけでなくカルチャーづくりにも役立つレコメンド – 株式会社ベイクルーズ『BAYCREW’S STORE』」
https://www.silveregg.co.jp/archives/casestudy/baycrews

 

また、シルバーエッグの調査ではコーディネートの閲覧数が多ければ多いほど、平均購入金額が高い傾向にあるという結果があり、このことはユーザーが購入に至るまでの参考にコーディネートのスナップを大いに利用していることを裏付けています。

コーディネート表示の効果の一例

しかし、スナップが大量すぎてもユーザーは自分にとって価値のあるスナップを見つけることができなくなってしまい、いわゆる「情報過多」の状態となり検討をあきらめてしまいます。

ここで重要なのは、ユーザーが求めているスナップを彼らの目に入るように、うまく表示させることです。

 

コンテンツとアイテムを横断したレコメンド表示を利用するとこれが実現できます。
前述の通り、レコメンドエンジンは類似性やユーザーの閲覧や購入といった行動履歴をもとにパーソナライズされたスナップを表示させることができます。

通常のカテゴリや属性とは異なる切り口で、潜在的かつ直観的に顧客が興味を持ちそうなスタイリングが表示されます。

このため、ユーザーはいちいち細かなソートや検索条件を指定しなくても、つぎつぎに「見たいと思えるスナップ」を見つけることができ、その過程で商品やブランドそのものに対する興味が温められていきます。

 

このように、ECのメディア化にレコメンドをうまく活用することで、たくさんのコンテンツのなかから、ユーザーが「見たい」「探している」情報に最短距離でアクセスできるようにすることができるようになります。

こうした工夫は最終的に購入に結び付くだけではなく、ユーザーにとって「価値ある」情報を供給してくれるサイトとして認識され、サイト全体のロイヤリティを向上させます。

また、ユーザーの興味を温めるという意味では、サイトがファッション雑誌のようにユーザーをファン化し、固有のカルチャーを醸成しているということができます。

 

まとめ

 

コンテンツマーケティングの重要性の高まりを背景に、オウンドメディアをマーケティングのための一つのチャネルとして活用することが当たり前になりました。

 

しかしオウンドメディアの運用には工数がかかり、またサイト閲覧数だけ増えて肝心の目的が達成できなければ意味がありません。

とくにECサイトの場合、購入というゴールに対して、戦略的にコンテンツを展開していかなければ意味がありません。

一方ではサイトの品位やロイヤリティを落とさず、なおかつ他方ではユーザーにとって価値ある情報、つまりリアルで自分の生活と結びつく情報を提供していく必要があります。

目的に合わせて両者のバランスをとっていくことが重要です。

 

また、オウンドメディアのコンテンツと売りたい商品のページとが分断してしまっては意味がありません。

ECサイト全体をメディア化し、顧客がコンテンツと商品のジャンルをシームレスに横断することのできるUIが理想的と言えます。

これにより顧客は情報収集と購入とのプロセスを無意識的に行き来し、商品への関心を高めていくことができます。

 

ただし、大量なコンテンツや商品がある場合、顧客が求める情報や商品にすぐにアクセスできる状態でなければ、情報過多のストレスを感じさせることになってしまいます。

AIレコメンドによってコンテンツとアイテムをジャンル横断的に表示させることにより、ECのメディア化の効果を最大限に発揮させることができるでしょう。



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