デジタルマーケティングの転換期において、オンラインビジネスに関わる皆様は、プライバシー保護の強化（クッキー規制）と、生成AIの急速な進化という二つの大きな波に直面していると思います。

従来のターゲティング手法が難しくなる中、競争優位性を保ち顧客生涯価値を向上させるためには、これらの変化を理解し、戦略を再構築することが不可欠です。
本記事では、この時代の変化を乗り越えるヒントとなる、AIとデータ活用、そしてデジタル戦略に関する必読の4冊を厳選してご紹介します。

直近の課題解決から未来の生き残り戦略まで、幅広い視点を得るためにご活用ください。

INDEX

1. 広瀬安彦著『クッキー規制を乗り越える！ 新しいデジタルマーケティングの本』
2. 大森健巳著『AIで加速するマーケティングの教科書』
3. バーナード・マー著 『生成AI活用の最前線』
4. 今井翔太著『生成AIで世界はこう変わる』

ポストクッキー時代は「顧客と向き合う」絶好の機会

広瀬安彦著『クッキー規制を乗り越える！ 新しいデジタルマーケティングの本』技術評論社, 2023年

Webサイトを訪問すると「Cookieに同意しますか？」というポップアップが表示され、選択を求められる。数年前には見られなかったこの身近な変化の裏には、世界中のデジタルマーケティング業界を揺るがす「クッキー規制」という大きな潮流があります。
規制によってサードパーティクッキーが活用できた従来のデジタルマーケティング手法が根底から変わる今、プライバシー保護と成果の両立に悩むマーケターも多いのではないでしょうか。

本書『クッキー規制を乗り越える！ 新しいデジタルマーケティングの本』は、そんなデジタル世界の大きな転換点を、野村総合研究所の広瀬安彦氏が基本から丁寧に解説しています。専門家だけでなく、この問題に初めて触れる方にもその本質が理解できるよう書かれた一冊です。

本書は、まずクッキー規制の背景とビジネスへの影響を分析することから始まります。その上で、課題提起に留まらず、解決策として顧客から同意を得て収集する「ファーストパーティデータ」の重要性や、「共通IDソリューション」等の新技術、関連法規までを体系的に解説しています。ポストクッキー時代の「新しい常識」を網羅的に学べる内容と言えるでしょう。筆者はこのクッキー規制を単なる「試練」ではなく、企業が顧客とより深く向き合うための「進化の機会」と捉えています。
本書で提示される「コンテキストマッチ広告」への転換のヒントは、顧客の「今」のニーズや文脈を捉えるアプローチの重要性を裏付けます。この視点は、WebサイトのUI/UX改善、LTVの向上などを目指す上で欠かせないものでしょう。

従来のマーケティング手法に限界を感じ、デジタル戦略の再構築を目指すすべてのマーケターにとって、顧客との新しい信頼関係を築くための道筋を照らす、必読の書と言えます。

「AIは難しい」を解消！普遍的なマーケティング王道にAIを組み込む実践の書

大森健巳著『AIで加速するマーケティングの教科書』きずな出版, 2025年

市場の変化が加速し、消費者の価値観も多様化する現代において、従来のマーケティング手法だけでは競争優位性を保つことが難しくなっています。この複雑な状況を乗りこえ、次の一手を見出すための鍵こそが「AI」です。しかし多くの人にとって、AIはその具体的な活用法が難しいテーマでもあります。大森健巳氏の「AIで加速するマーケティングの教科書」は、AIの難解な専門書としてではなく、明日からすぐに使える「実践の書」として解説してくれています。

著者の大森氏は、企業の成長を支えるマーケティングの専門家であり、マーケティング理論を実践に落とし込み、多くの企業の業績を向上させてきた実績を持ちます。その豊富な知見が、「AI×マーケティング」という最先端のテーマに説得力を与えています。

本書の最大の魅力は、その読みやすさと実践性にあります。AI関連の書籍にありがちな専門用語は控えられ、「特別な知識や高額なシステムは不要」というスタンスで、誰もがAIを使いこなすための道筋を示してくれています。単にAIの機能を紹介するのではなく、「なぜ今、AIが必要なのか」というビジネス環境の変化から丁寧に紐解き、普遍的なマーケティングのフレームワークにAIという最新の武器をどう組み込むかを具体的に解説しているため、深く納得しながら読み進められます。

本書は、広告運用の効果に伸び悩み、新たな打ち手を探しているマーケティング担当者にとって、現状を打破するヒントを与えてくれる一冊です。また、「AIの実践的な活用は難しい」という先入観を持つすべてのビジネスパーソンには、AIが身近で頼れるパートナーになり得ることを教えてくれる入門書となるでしょう。あらゆる立場のビジネスパーソンにぜひ、読んでいただきたいです。

生成AI活用の「アイデア地図」とビジネスを勝ち抜くための指針

バーナード・マー著 『生成AI活用の最前線』東洋経済新報社, 2025年

著者のバーナード・マー氏は、ビジネスにおける世界的インフルエンサーであり、Google、トヨタ、ウォルマートといった世界的企業の経営層に戦略アドバイスを行う第一人者です。

2022年、ChatGPTの登場により生成AIへの期待は一気に高まり、先進的な大企業での導入が加速しました。 本書は、この急激な変化の中で、生成AIの「他社の活用状況を知りたい」「自社の活用の参考にしたい」という企業のニーズに応える実践的な道標として、2024年に上梓されました。生成AIの背景と影響の概説（I）、活用例（II）、そして実際の導入と成功に向けた指針（III）の3部からなります。

特に活用例については、医療、金融、エンターテイメント、小売など多岐にわたる分野の実際の活用が100以上、俯瞰的にまとめられています。専門知識がなくても読みやすい文章で、広範な活用アイデアを網羅的にインプットできます。一つの事例の導入工程や成果を深く掘り下げるというよりは、生成AI活用のアイデア収集やブレーンストーミングに最適化された一冊と言えます。

また、オンラインビジネスの事業者やマーケターにとって特に刺激的なのは、第2部の最後で展開される生成AIを活用したデータインサイトに関する議論です。生成AIによって競争力を強化し他社との差別化を図るには、個別業務の工数削減やクオリティ向上だけでは不十分です。ここで鍵を握るのは、データ分析とそこから得られる真のインサイトです。本書は、データが複雑・膨大すぎて意思決定が困難になる「意思決定のジレンマ」という現代のビジネス課題に対し、生成AIが提供するインサイトの拡張性に注目しています。そして、そのために従業員に求められる姿勢、企業が取るべき人材育成の方針、さらには高コストなデータ活用が難しい中小企業への打開策にまで言及しています。

生成AIはビジネスを抜本的に革新しましたが、最終的な施策の評価や経営の意思決定を担うのは人間です。本書は、広範な活用例を通じて、経営者と従業員、大企業と中小企業といった様々な立場の人間が、生成AIとどのように向き合い、ビジネスの難局を乗り越えるべきかという実践的で包括的な指針を示す1冊です。

AI進化の最前線を知り、代替不可能な「オンリーワン人材」を目指す

今井翔太著『生成AIで世界はこう変わる』SBクリエイティブ, 2024年

著者の今井翔太氏は、AI研究の最前線である東京大学大学院松尾研究室に在籍し、生成AIにおける強化学習活用の研究者として知られています。
ChatGPT登場以降、生成AIは19世紀の産業革命やインターネットによる情報革命に匹敵するほどの社会変革をもたらすと予測されています。本書では、生成AIがこれまでのAIとどう違うのかという本質的な問いから、AIに置き換わる仕事や働き方の変化、そして生成AIがもたらす社会・経済・文化の変化について解説しています。その中で著者は、生成AIの本質や、それに対する脅威論、楽観論などを多角的に解説し、この大きな変化の中で個人が生成AIと共存し活用するための「生存戦略」を提示しています。

従来より、AIの進化は、社会や人々の生活に多大な影響を及ぼすと言われてきました。特に単純作業や定型業務が自動化され人々の仕事が奪われるというAI脅威論が主流でしたが、生成AIの登場により、その論点の本質が変わってきたと筆者は説明しています。単純作業よりも、高度なホワイトカラーの仕事が生成AIで代替され、むしろAIだけでは成立しない運動系の労働が生き残るというパラダイムシフトが起こりつつあります。また筆者は社会においても、生成AIでアウトプットされる判断が「正」とされることに警鐘を鳴らしていています。このような進化のなかで人々の生き残り戦略はAIを使うことを恐れず、自分の専門知識・スキル・AIの活用能力を組み合わせることを学びつづけ、ニッチで代替不可能な価値をもつオンリーワン人材を目指すことであると結論づけています。

「生成AI」と一括りにされているAI進化の現在地点と今後の人々への影響、かかわり方を理解するために、すべてのビジネスマンにおすすめする一冊です。

今回ご紹介した4冊の書籍から、デジタル変革期を勝ち抜く鍵として、信頼できるデータ活用とそれを土台とする AI活用 が不可欠であることが再確認できます。

生成AIはビジネスを抜本的に革新しましたが、最終的な施策の評価や経営の意思決定を担うのは人間です。AIに触れることを恐れず、創造し未来を描くマーケターであり続けることが重要です。