誰のためのパーソナライゼーションか? – ユーザーエージェントとしての「レコメンドエンジン」の価値


レコメンドエンジンは、その名の通り人に何かをお勧めするためのツールです。リアル店舗で店員が良い品をお客様にお勧めする代わりに、ネットショップではレコメンドエンジンが自動的に商品をパーソナライズしてユーザーに勧めてくれる。一般にはそんな風に理解されています。

でも、実はレコメンドエンジンが、「店員の代わり」ではなく、「お客様=ユーザーの代わり」となるツールだと言ったらどうでしょうか? 言葉遊びのようですが、実はレコメンドエンジンを中核としたパーソナライゼーションツールの価値の核心は、そこにあるのです。

 

 

シルバーエッグ・テクノロジーのレコメンドサービス「アイジェント」は、“AI”と“エージェント”を組み合わせた造語です。今回はこの「エージェント(代理人)」という言葉を手掛かりに、まずはAIの歴史を紐解き、レコメンドエンジンやパーソナライゼーションツールが何を実現し、どのような価値を生むのかを説明します。

 

人の心は、小さな機械(エージェント)の集合体?

「人工知能の父」と呼ばれ、ニューラルネットワークなど様々なAI研究の基礎を切り開いたコンピューター科学者、マーヴィン・ミンスキーは、1986年、『心の社会』と呼ばれる本を出版しました。

これは彼の学術的な研究書とは異なり、彼が人工知能に関する思索の中でうまれた「人間の心とは何か」に関するアイディアをとりまとめ、大衆に向けて説明した本です。そのアイディアの根幹は、人の心とは、たくさんの小さなプロセスの集合体である、というものでした。

 

彼の言うプロセスとは、ひとつひとつは非常に機械的な、知的には感じられない心の動作――たとえば「何かを見る」とか「手を動かす」とか――を指します。ミンスキーはこれを「エージェント」と呼び、この一見非知性的なエージェントが互いに影響し合うことで、全体として一つの“心”が生成されると説明しました。心があって動作を作り出すのではなく、多様な動作があって心が生まれるという発想の転換を行ったのです。

AIという機械を通じて人間とは何かを解き明かそうとした『心の社会』の発想は、その後の研究に基づく脳の理解とはかけ離れた部分もあります。ただ、そのモデルには実用性があり、80年代の米国では、社会組織の研究に応用されたり、複数のエージェントを組み合わせて全体として高度な目的を達成させる分散人工知能(のちのマルチエージェントシステム)の研究に影響を与えたりしました。

 

 

ネットの中で人の代理をするエージェント、レコメンドエンジン

ミンスキーの言う「エージェント」とは別に、コンピューターサイエンスの世界では「エージェント」という概念が70年代後半に生み出され、マルチエージェントシステムなどのAI研究も取り込んで発展してきました。その定義には幅がありますが、おおむね特定の機能・用途を持ち、限られた特定機能を持ち、ユーザーや他のソフトウェアの代理・仲介役として働くプログラムのことを指します。また、ユーザーからの直接的な指示がなくても、条件が整うと自律的に作動するのも、特徴のひとつです。

 

レコメンドエンジンも、このソフトウェア・エージェントのひとつとして数えることができます。外界を認識し(ユーザーの行動を観察し)、推論エンジンを介してユーザーにパーソナライズされた商品の選出を行う、知的かつ自律的なエージェントです。

ただ、ここで強調したいのは、エージェントとしてのレコメンドエンジンが誰の代理となるのか、ということです。「AIがレコメンド(推薦)する」というと、AIがお店の店員(=ネットショップのマーケター)に成り代わってお客様に何かを提案するようなイメージを持たれがちですし、事実私たちも、お客様にアイジェント・レコメンダーの機能をそのように説明します。しかし、実際のところレコメンドエンジンは、エンドユーザー(消費者)の代理なのです。

 

 

「見つけ出す」という動作を代理し、人の心を満たす

前述のとおり、レコメンドエンジンはユーザーの行動を観察し、内部に蓄えられたデータとアルゴリズムを使って、ユーザーが潜在的に求めていたものを予測します。その動作は「ユーザー」と「AI」だけで完結しており、原則として、ネットショップのマーケターの意思が介入する余地はありません(実際には、AIのチューニングやフィルタリングというかたちで関与しますが)。

つまり、AIベースのレコメンドエンジンは本来ユーザー自身が行うべき「自分の嗜好に基づき、好きなものを探し出す」という行動を、機械的に補完するエージェントなのです。ネットショップはリアル店舗と違い、構造的に情報が見つけづらいため、ユーザーはその探索をAIに託していると言えます。

ミンスキーの『心の社会』に倣えば、レコメンドエンジンはクラウド上に置かれた、ユーザー本人の「心のエージェント」のひとつであると言えるでしょう。その中身は比較的シンプルな機械学習システムですが、ユーザーの心のふるまい(何を買ったとか、何を好んで見たとか)と影響しあって、「欲しいものを見つけ出す」という複雑で知的な目的を達成します。

 

企業視点では、レコメンドエンジンは売上向上に寄与するツールですが、それはマーケターに代わって商品をうまく宣伝したからではありません。むしろマーケターの恣意的な判断を排し、ユーザー個人に寄り添ってサイトを使いやすくしたからこそ、成果が得られるのです。

レコメンドエンジンを中核としたパーソナライゼーションツールは、ユーザーの「欲しい」という情動をサポートする顧客中心主義のマーケティングツールであり、個人に最適化されたユーザー体験の創出こそが、その価値と言えます。

 



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