ソフトウェアエージェントから、AIエージェントへ ~ レコメンドエンジンを例に考える、「エージェント」の過去・現在・未来


2025年、生成AIの急速な普及とともに、次の段階と言われる「AIエージェント」の利用が始まりつつあります。それは単なる技術トレンドではなく、私たちの働き方や、情報との関わり方を根底から変える可能性を秘めています。しかし、その本質を正しく理解しているでしょうか?

 

この言葉が真に意味するものを探るため、一度その原点に立ち返る必要があります。この記事では、AIの黎明期から存在する「エージェント」という概念を整理し、その思想を最も早くから商業的に体現してきた代表例の一つ、「レコメンドエンジン」を題材に、AIエージェントが誰のために働き、どのような未来をもたらすのかを考察します。

 

【INDEX】
1. 心の社会:すべての知性は「エージェントの集合体」である
2. ソフトウェアエージェントの登場と、その最先端としてのレコメンドエンジン
3. LLMがもたらした革命:「AIエージェント」の誕生
4. 未来の展望:人間と協働する「エージェント型AI」
まとめ:ミンスキーのビジョンと、「欲しい」を支えるAIの本質


1. 心の社会:すべての知性は「エージェントの集合体」である

ITにおける「エージェント」という概念の源流は、人工知能の父とも言われるマーヴィン・ミンスキーが1986年に著した『心の社会』にまで遡ります。彼は、コンピューターシステムの研究を通じて、人間の「心」や「知性」は単一の原理で動いているのではなく、「エージェント」と呼ばれる無数の小さな専門家の集合体ではないかと論じました。

 

何かを見る「視覚エージェント」、物を掴む「運動エージェント」、言葉を紡ぐ「言語エージェント」。これら一つひとつは単純な機能しか持ちませんが、その集合体が相互作用することで、複雑な思考や意識が生まれる。ミンスキーは、心とはこの「エージェントの社会」そのものであると定義しました。この思想は、現代のAI開発における重要な哲学的バックボーンとなっています。

 

 

2. ソフトウェアエージェントの登場と、その最先端としてのレコメンドエンジン

ミンスキーの思想が生まれて間もない80年代から90年代にかけ、ITの世界では「ソフトウェアエージェント」が実用化され始めました。これは、ユーザーの代理として、自律的に特定のタスクをこなすプログラムを指します。その特徴は「自律性」「反応性」「自発性」であり、具体例としては、システムの異常を24時間監視する「監視ツール」、受信メールを自動で振り分ける「フィルタリングソフト」、あるいは特定の専門知識で質問に答える「エキスパートシステム」も、その一種ということができるでしょう。

 

そして、このソフトウェアエージェントの一つの最先端の形が、Eコマースの世界で花開いた「レコメンドエンジン」です。機械学習技術によって作られたニーズ予測AIの一種であるレコメンドエンジンは、商品の入れ替えやユーザー行動の変化に自動的に「反応」し、潜在的なニーズを予測して商品を「自発的」に提案し続ける、まさに常駐型の自律エージェントです。その機能は進化し続け、ECや配信サービスには欠かせない存在となりました。

 

ここで重要な問いが生まれます。レコメンドエンジンは、一体「誰」のエージェントなのでしょうか?

 

一つは「企業のマーケター」のエージェントです。サイトの売上向上のため、優秀な店員の代わりを務めます。しかし、その動作原理に目を向けると、様相は一変します。レコメンドエンジンを構成するAIは、顧客の行動データを使い、顧客の嗜好を推測し、顧客個人のために商品を提案する。そこにあるのは「AIと顧客との(非言語的な)対話」であり、マーケターの「これを売りたい」という直接的な意志は介在しません。この意味で、レコメンドエンジンは「ECサイト顧客」のエージェント、つまり、顧客の「欲しい」という欲求と行動をサポートする代理人でもあるのです。

 

この二面性、そしてルールベースを超えた機械学習・AI技術をいち早く取り入れた予測能力。それゆえに、レコメンドエンジンは旧来のソフトウェアエージェントの枠を超えた、次世代の「AIエージェント」への橋渡しとなる存在と言えるのです。

 

 

3. LLMがもたらした革命:「AIエージェント」の誕生

2020年代に入り、LLM(大規模言語モデル)が登場すると、「エージェント」の能力は飛躍的に向上しました。これが「AIエージェント」です。

 

彼らは、LLMという強力な思考エンジンを核に、人間の曖昧な言葉を理解し、複雑なタスクを複数のステップに分解して計画を立て、必要に応じて外部のデータを呼び出して自律的に実行します。旧来のソフトウェアエージェントを決められたことをこなす事務員に例えるのなら、AIエージェントはオンデマンドで高度なタスクを依頼できる「フリーランスの専門家」と言えるでしょう。

 

この進化の波は、レコメンドエンジンにも及んでいます。従来の予測AIモデルにLLMを組み合わせることで、ユーザーの行動情報や商品のスペックだけでなく、レビューの文脈やSNSの評判といった非構造化データを分析し、「キャンプ好きで、最近二人目が生まれたあなたへ。このワンタッチで設営できる大型テントは、家族の思い出作りに最適ですよ」といった、共感を呼ぶ理由付けと共に推薦することが可能になります。顧客との対話から、より深く、人間的な「欲しい」を引き出す、高度なレコメンドエージェントへの進化が始まっています。

 

 

4. 未来の展望:人間と協働する「エージェント型AI」

さらにその先には、より高度な「エージェント型AI」の時代が到来すると予測されています。「AIエージェント」と「エージェント型AI」は同じ言葉のようですが、ガートナー社などの解説によれば異なります。エージェント型AIは、単に指示を待つアシスタントではありません。組織の抽象的な目標(例:第3四半期の売上5%向上)を共有し、その達成のために自ら課題を発見し、計画を立て、長期にわたって自律的に活動する「戦略的なパートナー」です。人間とチームを組み、プロジェクトを推進する。それは、ビジネスにおける「仮想的な同僚」の誕生を意味します。

 

この未来において、レコメンドエンジンもまた、二つの方向へ大きく進化するでしょう。

 

一つは、企業のパートナーとしての進化です。売上などの大きな目標達成のために、顧客を一人ひとりのレベルで理解し、「買ってもらうための戦略」を自律的に計画し、顧客に提案し、効果を分析、修正する。まさに「エージェント型AI」としての役割です。

 

もう一つは、ユーザーのパートナーとしての進化です。個々のユーザーの消費行動やライフステージの変化、潜在的な興味の移ろいを長期的に記憶・学習し、ユーザーの「何かが欲しい」という意図に応じて、最良の選択肢を提示する。単なる商品提案に留まらず、ユーザーの「より良い生活」を実現するための、究極のパーソナルエージェントの根幹機能となるでしょう。

 

 

まとめ:ミンスキーのビジョンと、「欲しい」を支えるAIの本質

ミンスキーが想定した、無数のエージェントによって構築された「人間の心」。それは実際の人間の脳の機序とは異なるものかもしれませんが、そのビジョンに近いものが、AI技術の進化によって実現しようとしています。AIは、人間の知性や思考を代替するものではなく、人間の一部となって、知的行動を強化・拡張するエージェントとしての役割を担い始めています。レコメンドエンジンを例にとれば、顧客一人ひとりの心の中に存在する、言葉にならない「欲しい」という欲求。その小さな声に耳を傾け、より良い選択肢を発見し、実現へと導くことが、その使命と言えます。

 

これからの時代、様々な用途に対応するAIエージェント、あるいはエージェント型AIが、人々の生活を支えていくことになるでしょう。そのような時代に向けて、ビジネスにおけるテクノロジー活用の方法も、変革が求められています。

 

 

(取材・編集: 園田 真悟)


 

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