ユーザーの「もっと読みたい」という“熱”を捉え、レコメンドでARPPUを上げていく – NTT ドコモ 『dブック』


「dブック」は、NTTドコモが運営する電子書籍販売サービスです。サービス開始から10年以上経つ同サービスは、ドコモのポイントを使って読める利便性を武器に、競争の激しい電子書籍業界で独自の地位を築きました。

 

いま、dブックは一人ひとりの顧客と真摯に向き合うマーケティング手法で、さらなる成長を目指そうとしています。その取り組みのなかで、レコメンドエンジンはなぜ重視され、またどのような成果を出してきたのでしょうか? NTTドコモ スマートライフカンパニーでdブックの開発・運営を担当する三浦様、岩佐様にお話を伺いました。

 

【INDEX】

N1分析で顧客のニーズを深掘りし、進化するサービス
スピード重視のレコメンド導入で、読みたい書籍と出会えるサイトに
ARPPU110%向上 – ユーザーの“熱”を捉えた書籍提案を実現
AIを使いこなし、事業のスピードは加速する


 

N1分析で顧客のニーズを深掘りし、進化するサービス

▼事業開始から12年となるdブックは、老舗の電子書籍サービスと言っても良いかと思います。サービスの特長はどこにあるのでしょうか?

三浦:NTTドコモは2022年、エンターテイメント、金融・決済、ヘルスケアなどの非通信事業を統合的に展開する新組織、スマートライフカンパニーを設立しました。dブックは、dアニメストアなどと並びNTTドコモのコンテンツサービスの柱の一つとなっています。

 

電子書籍市場は現在も10%前後の成長を続けており、競合他社との競争が激しい環境です。そんな中でdブックの強みは、やはりNTTドコモの「dポイント」というサービス横断的なポイント制度が中核になっています。他のコミック専業サービスとは異なり、コミック、小説、実用書などの幅広い書籍を、dポイントを使って購入することができ、生活の中に読書という体験を気軽に取り入れていただくことができます。

 

dブックでは現在ドコモユーザーのお客様をメインターゲットに、dブックデー(毎月10,20,30日の購入でdポイント還元が20倍となるキャンペーン)などのdポイント利便性をフックとした施策を実施しています。また、2023年2月にはオリジナルコミックの提供を開始し、コンテンツ製作にも注力することでキャリアフリーユーザーをはじめとしたお客様との接点を広げ、より多くのお客様が電子書籍を楽しめる環境づくりに努めています。

 

 

▼他の電子書籍サービスに比べ、ユーザーの属性にも違いがあるのでしょうか?

三浦:ユーザー年齢層は競合の電子書籍サービスと比べて特徴的で、30~40代の購買意向の高いお客様がメインユーザーになっています。男女比で言うと、dブックはもともと女性のユーザー比率が大きかったですが、2021年のサービスのリニューアル実施後は男性ユーザーにも広くご利用いただけるようになりました。より多くのお客様にサービスをご利用いただく中で、今の私たちの戦略は男性、女性という属性ごとにコンテンツ編成を作る従来の方法論から脱却しつつあります。

 

「女性向け漫画」「男性向け漫画」といった属性ベースのコンテンツの分類があまり意味をなさなくなっているのは、皆さんも感じられているかと思います。漫画、小説などの書籍をはじめ、エンタメコンテンツへのお客様の興味関心は、もっと複雑で多様です。スマートライフカンパニーでは「お客様の深い理解」を非常に重視しており、行動指針であるPurpose&3Valuesにも重要な価値観として掲げています。この行動指針の下、dブックでもN1分析(実在する特定の顧客1人の考え方や意見についてインタビューを基に深掘りし、立体的な顧客理解を図る手法)を大きく取り入れました。ユーザー1人ひとりが書籍をどう読むのかを分析し、サービス改善やコンテンツの編成に反映させるようにしています。

 

 

スピード重視のレコメンド導入で、読みたい書籍と出会えるサイトに

▼レコメンドエンジンの導入は、コンテンツ戦略にどう影響したのでしょうか?

三浦:N1インタビューによって明らかになったサービス課題のひとつにレコメンドがありました。当時、サービスサイト・アプリに陳列するコンテンツは編集者が話題や売れ筋のコンテンツを選定していましたが、インタビューで実際にお客様の生の声を聞いたところ、自分の趣味嗜好にマッチした、読みたいと思える書籍が並んでいることが重要だとわかり、この体験がサービスの利用開始や定着に非常に重要なポイントであるということが分かってきました。

 

dブックは、「お得なキャンペーンでdポイントを活用し、買いたい本だけ購入して終わってしまう」お客様が多かったのですが、レコメンドエンジンを導入し、1to1でお客様の趣味嗜好にマッチしたコンテンツを提供することで、この状況を変えていこうと考えました。お客様の嗜好は千差万別です。リアルタイムで個々人のニーズに直接応えられるレコメンドは、dブック全体のパーソナライズ戦略とも合致しています。

 

 

▼レコメンドエンジンの選定はどのように進められましたか?

三浦:レコメンドエンジンの威力については、AmazonなどのECサイトで私たち自身も日頃体験していました。自分の関心にあった商品をレコメンドされると、サービスへのエンゲージメントが上がることを自ら肌感で強く感じており、レコメンドの精度は上質な顧客体験にとって不可欠の要素だと考えていました。また、サービス利用導線の中でどうレコメンドコンテンツを提示し、購入の機会を作るのかも考慮しなければなりません。レコメンドエンジンの導入に合わせてUIUXの最適化はもちろん、既に導入済であったMAによるメルマガ施策やWeb接客ツールとどう組み合わせるかなど、サービス全体のお客様体験の設計を考慮しつつ検討を進めました。

 

レコメンドエンジンの検討から導入までは、2~3カ月程度の期間をかけました。電子書籍業界の中では、dブックはまだまだ市場のトッププレイヤーの背中を追う立場です。導入検討時、競合に追いつくために開発したい機能要件は山積みでしたが、市場調査やユーザーインタビューの中で、実際にお客様がコンテンツレコメンドを非常に重視することが明らかになっていたため、スピード重視でレコメンド機能を実装することを優先としました。ユーザーの皆様にいち早く機能を体験してもらい、ひとつでもトップとの差を埋めていくことが重要だと考えています。

 

検討にあたり、自社開発のエンジンと、複数の専業ベンダーのエンジンを比較しましたが、レコメンドの精度、リアルタイム性の面で優位であったシルバーエッグ・テクノロジーのアイジェント・レコメンダーを採用しました。

 

 

ARPPU110%向上 – ユーザーの“熱”を捉えた書籍提案を実現

▼アイジェント・レコメンダーの導入により、どのような成果が得られたのでしょうか?

岩佐:結果は数字に表れています。ARPPU(有料ユーザー1人あたりの平均収益)が、レコメンド経由で購入するユーザーでは導入前と比較して110%に増加しており、レコメンドエンジンの導入がARPPU向上に寄与しております。

 

また、電子書籍の中でも特にコミックはシリーズ単位で読まれており、シリーズを読み終わるとサービスから離れる傾向がありますが、レコメンド経由で購入したユーザーは、1人あたりが購読するシリーズ数が右肩上がりに増えています。レコメンドによって新たな作品との出会いが広がっている証拠かと思います。

 

N1インタビューでも、以前に比べ「良い作品に出会えない」「探しづらい」というコメントが減っています。ユーザーの作品探索がアクティブになり、dブックの課題であった「購買シリーズ数の少なさ」が解消されつつあると考えています。

 

 

▼コンテンツ配信サービスでレコメンドを使いこなすためのポイントがあれば、教えてください。

岩佐:書籍は人の嗜好がはっきりと表れるものですが、中には「いきなり画面上でレコメンドするのはどうかな」というセンシティブなジャンルもありますよね? そういったジャンルはアイジェント・レコメンダーのカスタマイズフィルター機能で、一度でもジャンル作品を読まない限り掲出しないようにしています。お客様の「このジャンルを読みたい」という意思表示を尊重し、レコメンド内容を調整しています。

 

また、これは特に運用側が工夫するものではありませんが、アイジェント・レコメンダーはユーザーが今、見たり探したりしている作品をもとに、リアルタイムでパーソナライズされたレコメンドを出すことができます。この機能によって、作品を読み終えた直後の「もっと読みたい」という熱量を抱いているユーザーに対し、即座に最適な作品をおすすめすることができています。これはコンテンツ配信サービスにとって非常に価値のある機能だと思います。

 

 

AIを使いこなし、事業のスピードは加速する

▼今後、レコメンドエンジンを使いdブックをどのように発展させていくのでしょうか?

岩佐:現在はアイジェント・レコメンダーのメールレコメンドオプションである「レコガゾウ」の実装を進めている段階です。MAツールと連携することで効果が発揮できると考えています。また、将来的にはdブックアプリでの実装も考えていきたいですね。

 

三浦:アイジェント・レコメンダーでAIによる自動レコメンドの効果は実感できました。現在は生成AIなど、より多様なAIサービスが商業利用できるようになりつつあります。いままで人力で行っていた部分の省力化が進み、事業のスピードが加速していくと思います。AIを使いこなすことで、より豊かなサービスを目指していきたいです。

 

 

(編集:園田真悟)

 



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