ファンとの絆を深める「ベルメゾン」のEC戦略とパーソナライズの舞台裏 – 千趣会
女性の毎日に笑顔を届ける「ウーマンスマイルカンパニー」を企業ビジョンとし、カタログ通販の草分けとして多くのファンを持つ株式会社千趣会。同社が運営するECサイト「ベルメゾンネット」は、長年の顧客との関係性を大切にしながら、時代の変化に対応した新たなEC戦略を進めています。
今回は、同社のベルメゾン事業本部 ビジュアルマネジメント部 部長 村松 和貴様と、同 サイト運営DBチーム マネージャー 井戸向 祐也様に、ECサイトにおけるLTV最大化の取り組みや、レコメンドエンジン「アイジェント・レコメンダー」の活用法、そしてファンとの絆を深めるための今後の展望について、詳しくお話を伺いました。
INDEX
・時代に合わせて変化する、ウーマンスマイルカンパニーのDNA
・「統合ツール」の理想と現実。再導入で専門性の価値を再認識
・システム障害時にも売上が落ちなかった、ロイヤル顧客を掴むレコメンドの力
・「誰に勧められるか」が重要。AIと共創する“発見”のお手伝い
時代に合わせて変化する、ウーマンスマイルカンパニーのDNA
―― まずは、皆様の役割と、貴社の理念についてお聞かせください。
村松様:ベルメゾン事業本部ビジュアルマネジメント部を担当しています。私たちの部隊は、ECサイトの運営・保守、Webコンテンツや商品の撮影、カタログの制作といった、お客様との接点となるビジュアル全般の戦略設計と実行を担当しています。
井戸向様: 私はサイト運営DBチームのマネージャーです。サイトのUI/UXを検討する企画部隊とは別に、商品情報を作成してデータベースに反映させるチームを見ています。昨年までは別々だったカタログ制作とWeb制作の部隊が統合され、フローの改革の真っ最中です。
―― 貴社が長年掲げられている「ウーマンスマイルカンパニー」という理念について、改めてお聞かせいただけますか?
村松様: 「女性の毎日に笑顔を届ける」この想いが、私たちの原点になっています。1955年の創業当時は、働く女性が増えた時代でした。社会に出てストレスを抱える女性たちに笑顔をお届けする方法は、時代と共に変わってきましたが、そのDNAは今も受け継がれています。
現在は新たな事業戦略のひとつとして、1年(52週)を単位として週ごとの消費者行動や気候の変化などの予測に合わせ、売り場に活かす小売りの年間戦略である「52週MD」に取り組んでいます。これまでは年4回のカタログのスピード感で商品開発をしてきましたが、お客様の価値観やライフスタイルはもっと多様で、変化のスピードも速い。その変化にもっと細やかに、スピーディに向き合っていくため、商品や売り場を小刻みに変えていくというのが現在の戦略です。

―― ベルメゾンの主な顧客層は、団塊ジュニア世代かと思います。その市場をどのように捉え、サイト運営に反映されていますか?
村松様: 団塊ジュニア世代のお客様は、単なる価格よりも、ご自身の価値観や商品の機能性を重視される傾向にあります。また、モノの所有だけでなく「体験価値」にも魅力を感じられています。
そのため、「モノ」ではなく「コト」を売る売り場づくりが重要だと考えています。ただ、ECの世界で「コト消費」と言えば、どちらかといえばブランディング的な施策が主体になります。すぐに売上につながるわけではありません。そこで当社は、クーポンキャンペーンのようなインセンティブ訴求とうまくミックスするかたちで、「こんな季節だから、こんなお悩みを解決するアイテムをまとめてお得にいかがですか?」といった、ソリューション提案型のアプローチを今は重視しており、単なる安価訴求にならないようにしています。
また、ターゲットをより明確にするため、団塊ジュニア世代の女性にフォーカスし、ベルメゾンネットのトップページをリニューアルしました。バナーや文字を大きくし、とにかく見やすさを追求しています。コンテンツ面でも、「アラフィフ」や「更年期世代」といった、これまで直接的には触れてこなかった具体的な世代名を前面に出し、メッセージを絞り込み「私のお店」と思ってもらえるようなUI/UXを目指しています。
「統合ツール」の理想と現実。再導入で専門性の価値を再認識
―― レコメンドエンジンの「アイジェント・レコメンダー」は、かつて利用していたものを再導入したとのことですが、以前はどのような課題があったのでしょうか?
井戸向様: はい、実は一度別のツールに切り替えていました。その製品は「一つのツールで全部できます」というのが魅力の統合パッケージでした。しかし、実際に導入してみると、内部のシステムがバラバラでリアルタイム性がなく、カスタマイズには運用担当が独自で開発するため人的リソースがかかったりするという課題が明らかになり、期待通りの運用はできませんでした。
アイジェント・レコメンダーのような専門的なツールは、カスタマイズ性がよく、また機能がバージョンアップして強化されていく強みがあります。また、深い知見を持つコンサルタントやエンジニアと会話ができるため、ベンダーと一緒に機能を強化していけるメリットがあると感じました。
―― 再導入にあたり、特に評価されたポイントはどこでしたか?
井戸向様: 基本的な性能はもちろんですが、単なるツール提供にとどまらず、コンサルタントと一緒に分析結果を見ながら「次はどうしましょうか」と改善策を考えられる、コミュニケーションの取りやすさが魅力です。
現在は、商品詳細ページやカートページでのレコメンド精度を高めるため、どのようなデータを学習させるか、常に試行錯誤しています。例えば、カテゴリーの階層をどう設定するか、過去の相関データをどこまで反映させるか、といったことです。また、シルバーエッグのAIは学習データ(顧客の閲覧・購買などの行動情報)が不足している場合に代替商品を提案する「補填」という機能があるのですが、これをなるべくださないようにする、つまり、可能な限りあらゆるお客様にパーソナライズされた提案をする、といった点にもこだわっています。
システム障害時にも売上が落ちなかった、ロイヤル顧客を掴むレコメンドの力
―― 導入後の効果について、具体的なエピソードがあれば教えてください。
井戸向様: 実は、2021年にベルメゾンネットの大規模なシステム改修を行った際、お客様がログインできないといった障害が発生してしまいました。サイト全体の売上が落ち込む中、レコメンド経由の受注はほとんど下がらなかったのです。
サービスが不安定な状況でもサイトに来てくださるのは、ロイヤリティの高いお客様です。そうしたお客様がサービスに不信感を抱きかねない状況下でも、レコメンドの成果が落ちなかった。この事実は、お客様が本当に欲しいもの、興味のあるものをAIが的確に提案できていた証拠だと考えています。
運用面でも、以前の統合ツールに比べてむしろ管理はしやすくなりました。もちろん限られたリソースの中ではありますが、形だけ統合されたパッケージを使うよりも、洗練された個別最適のツールを社内で統合的に運用するほうが、当社には向いているのかもしれません。問題は業務が属人化しやすいという点ですが、これはチームの風通しをよくし、互いにサポートできる体制を作っていくしかないですね。

「誰に勧められるか」が重要。AIと共創する“発見”のお手伝い
―― 今後、ベルメゾンネットで強化していきたい顧客体験についてお聞かせください。
村松様: 少し概念的な話になりますが、レコメンドの精度がどれだけ上がっても、個々のお客様のニーズや嗜好を100%完璧に予測する、ということはできないと思っています。では、あと何が必要かと考えたとき、それは「誰にレコメンドされるか」という信頼性の部分ではないでしょうか。リアルな店舗で、信頼する店員さんにおすすめされるような体験が、オンラインでもできるような、表現と接客面での強化が、これから求められていくと思っています。
私たちは、長年カタログというメディアを通じて、いわば人力で商品をおすすめしてきました。自分一人で買い物をしていたら、きっと選ばなかったであろう商品との出会いを創出する。AIレコメンドには、そうした“発見”のお手伝いをしてくれる存在であってほしいと期待しています。


